main_img


遠くの川へ

考えてみると、毎年毎年、飽きもせず同じ川に出かけて、もう20年近くになる。最初に出かけた頃は、この川も、地元の人や、一部のアウトドア人間しか知らない、地方の小さな川だった。自分のものでもないのに、勝手なもので「とっておきの場所」は、皆に知ってもらいたいような、あまり知って欲しくないような、妙な感情を持ってしまうが、10年ほど前、ニュースステーションで紹介されたことで、今ではすっかり有名になり、皆の知るところとなった。この川の名前は、銚子川。名古屋から行くと、尾鷲市手前の紀北町海山区で、尾鷲湾に流れ込む小さな川だ。今は紀勢自動車道が、紀伊長島までつながっているので、名古屋から3時間弱といったところだが、つい数年前までは、伊勢自動車道から先は、一般道しかなく、優に4時間はかかった。毎回「三重県は広いな~。長いな~。」と思いながら、エアコンの利きが悪いワゴン車を走らせたものだ。

レポーター紹介
佐々木 敏彦(ささき としひこ)
銚子川(写真は全て)河口から約6km
銚子川(写真は全て)河口から約6km

近くの川へ

「何でまた、4時間もかけて出かけるの?」というのが、当たり前の疑問だと思う。名古屋は、アウトドアを楽しむには、大変恵まれた土地である。車で2時間も走れば、かなりの遠方まで足を伸ばせる。スキーをする人、山へ登る人、釣りをする人、どんなレジャーをするにも、大変アクセスがよい。5年程、東京住まいだった私は、しみじみそう思う。聞いたところでは、ゴルフをするにもコースに恵まれ、便利なようだ。そんな状況もあり「きれいな川なんか、もっと手近にあるよ。」という声が聞こえてきそうだ。当初、私もそう思い、岐阜や愛知、長野の川を攻めた(笑)。長良川の支流、木曽川支流、豊川水系など、あちこちに出かけた。

  • 河口から約6km:流れ込みのたまり。透明度が高いので浅く見えるが、深いところは3mくらい。石を抱えて水中(川底)歩行を楽しむ。
  • 河口から約6km:流れ込みのたまり。透明度が高いので浅く見えるが、深いところは3mくらい。石を抱えて水中(川底)歩行を楽しむ。

何しに川へ

そうそう「川へ何しに行くの?」という問いに答えなければいけない。釣りでは、ない。嫌いじゃないが、釣りをするなら、海へ行く。田舎者の私は、キャッチ&リリースなどという、紳士的な精神を持ち合わせていない。捕まえたものは、全て食べるのが基本。したがって、釣りなら、海でしょう!と思ってしまう。(川釣りに美学を持っている方々から、こっぴどく叱られそうだ)では、川への目的はというと、何のことはない、ただ水の上でプカプカ浮かび、魚を眺めて観察。あわよくば、捕まえる。川原でビールを飲み、バーベキュー。それだけのことをしに、川へ行くのだ。「だったら、もっと近くにいいとこあるよ。」と言う声が、また聞こえてきそうだ。

  • 河口から約6.5km:こうやってプカプカ、あるいはうつぶせになり、流される。これをしたいがために、この川に来る。
  • 河口から約6.5km:こうやってプカプカ、あるいはうつぶせになり、流される。これをしたいがために、この川に来る。
  • ところが、ところが、大事なことは、プカプカ浮かぶこと、水の中を観察、捕まえることを「長々と」やっていたい!ということなのだ。窮屈なウェットスーツを着て、ではなく、水着一丁で「長々と」水の中に入っていたいのだ。これまで行った場所にも、美しい清流はいくつもあったが、いかんせん、冷たすぎる。岐阜や長野はもちろん、愛知でも清流というものは、ほとんどが、中流域から上流域にしか存在しない。
    私が探していたのは、下流域の清流だったのだ。

記憶の川へ

  • 左:河口から約5.5km:誰が取り付けたかターザンロープ。 右:河口から約4km:堰堤でもたっぷり遊んで。
  • 左:河口から約5.5km:誰が取り付けたかターザンロープ。 右:河口から約4km:堰堤でもたっぷり遊んで。

愛媛県の南の果て、河口の町で生まれ育った私は、夏休みになると川へ出かけた。それはもう、皆勤賞がもらえるくらい、雨の日以外は、ほぼ毎日である。小学校低学年のころは、汽水域から1キロ程度上流にあった、天然のプールに通っていた。そこには、いつも青年団の監視員がいてくれた。かなり深いところもあるし、湧水でグッと水温が低いエリアもあり、そこは立ち入り禁止だった。禁止となると、行きたいのが人情である。監視員の目を盗んでは、葦を掻き分け立ち入り、よく叱られた。楽しい場所は、いつも危険と背中合わせなのである。高学年になると、場所を変え上流へ行ったり、河口まで下ったりと川ガキそのものである。(今思うと、あまりに田舎で、他に行くところがない、他に楽しい遊びがない。ということもあったのだろう……)中学校に入り、部活が忙しくなるまで、夏休みの皆勤賞は続いた。小学校3、4年の頃だったろうか、学校にプールができるということを聞いたとき、「川も海もあるのに、どうしてプールがいるのかな?」と思ったほどである。
その川も、今は上流にダムができ水量が減ったこと、石垣だった護岸はコンクリートに変わったことで、大きく様変わりした。天然のプールはなくなり、生態系も激変した。私の川の原風景は、1970年代前半の下流の清流なのだ。70年代には、日本全国に、こうした川が至る所にあったのだろうと思う。

私は、数十年の時を経て、今年も「幻の川」へ出かけている。

今回のレポーターを務めた建築家

佐々木 敏彦(ささき としひこ / Toshihiko Sasaki)

佐々木 敏彦 (ささき としひこ / Toshihiko Sasaki)
大久手計画工房
名古屋市昭和区広路町梅園9-1-107
TEL 052-853-9240 / FAX 052-853-9241
http://www.prince.ne.jp/~sasayan/
安心・安全・便利・エコというキーワードを背景にパッケージ化された商品群をいくら入念にセレクトしても住まい・暮らしは一向に豊かになっていきません。なぜならこれらのキーワードは各々のライフスタイルと深くかかわっていると同時に、多面的あるいは両義的な部分を……
more

イベント情報

凸凹を探そう 名古屋スリバチ学会

ページトップ