main_img


個性ある様々な文化

その歴史ある文化の一つの銭湯ですが、もちろん、個性もあります。建物や設備だけでなく、お湯の温度設定はどこの銭湯も微妙に違い、こだわりがあるようです。浴槽、シャワー、蛇口、それぞれお湯の温度が違うこともとても多いです。シャワーがぬるく、蛇口のお湯は熱くて水を足さないと使えなかったり、逆に、シャワーは熱めなのに、蛇口がぬるめだったりもします。決まりはないようですが、浴槽は比較的熱い温度設定のところが多いです。これは「ぬるい」というクレームと「長湯」を避けるためのようです。
銭湯には、その他にもたくさんの文化が詰まっています。
「番台」の形式もいろいろです。若い人たちには、死語になりつつあるこの番台。様々な形式があり、カウンター式で男女共同の待ち合い室があるタイプや、引き戸を開けるとすぐ番台があり、男女それぞれの脱衣場が見渡せる形式のものもあります。一長一短ですが、共通しているのは大きな暖簾がかかっていることです。この暖簾にも、いろんな形式と意味があります。その他、風呂の手桶・ドリンク・石鹸・ロッカー・体重計・扇風機等々、面白い箇所がいっぱいですが、これらについての考察はまたの機会に。

  • 左上:趣きのある扇風機 左下:懐かしい手桶 右:味のあるロッカー
  • 左上:趣きのある扇風機 左下:懐かしい手桶 右:味のあるロッカー

建築家=ターミネーター?

ここで、建築家という職業についても、少しご紹介します。
私たち建築家は、目にしたものを解析する癖があるようです。大げさに言うとSF映画「ターミネーター」のようだと思っています。
目にしたものの美しさ、心地よさ、好き嫌いなどを感じた後、瞬時にそのものの成り立ち・構造・質感・機能性などを分析しようとします。とても楽しいことでもあるのですが、同時に、素直に物事を感じられなくなっている自分に気づくことも、時々あります。簡単に言うと職業病でしょうね。
あえて「建築家の楽しい性(さが)」と言いますが、日々の生活で見るもの全てを、人間考察的視点で見てしまいます。これも、ほとんどの建築家に共通に言えることだと思います。建物だけでなく、すべての事象を多様な視点から考察を行っています。
物質の視覚的な美しさを求めるだけではなく、それによる不可視な影響力を俯瞰しながら、設計という細かい作業により考察していくのが、私たちの仕事だと思っています。
さて、その職業病の一つが銭湯での「壁の向こうが見えてくる」です。
見えてくると言っても、男女を隔てる壁が透けて見えるという意味ではありませんので、お間違えなく。 タイルが貼られた壁内部の、給水管・給湯管・排水管が見えてくるのです。同じ銭湯に何度か行くと洗い場の座る場所によって、お湯が適温になるタイミングが微妙に違うことや、排水の流れる方向、蛇口の位置等を観察していると、隠れた配管経路や方向がわかってくるのです。シャワーの形、排水口の位置やそこに至るまでの溝の深さ・勾配・方向まで、研究対象になり観察してしまいます。洗い場で体を洗いながら、隣との距離感はいい感じだな~。後ろの通路がもう少し広いといいな~。このレバーは使い易いな~。この台の幅がもう少し広いといいのにな~等々。ぼんやりしながらも、いろいろなことを考えてしまいます。

  • ターミネーター的分析を行ってしまいます
  • ターミネーター的分析を行ってしまいます

みんなの銭湯

それでは、終わりに、数ある銭湯の中でおすすめの銭湯を一つご紹介します。
昭和区にある「富美の湯」さんは、とても寛げる銭湯の一つです。休憩所も広く、簡単な遊び道具や本もたくさん置いてあり、子供からお年寄りまで幅広く慕われている銭湯です。
脱衣場や休憩所には立派な書画が掛けてあり、ご主人の趣味志向を伺わせます。大きな浴槽は、檜(ひのき)材をうまく使って味わいある空間です。サウナ室へ行く途中に小さな中庭があり、その奥が岩風呂になっています。雨が降ると、軒先から落ちる雫が何とも風情があり、まるで、山奥の秘湯へ行ったような錯覚を起こすほどです。
また、特別情報は年末の恒例行事です。毎年12月30日は、朝から富美の湯さん主催で、「餅つき」を行っています。常連ではない人(私も含む)も自由参加。ここ数年、この日を楽しみにしてご相伴に与っていますが、 なんと参加費無料なのです。きな粉や餡子をまぶした搗き立てのお餅とよく煮込んだ熱々の豚汁を戴いた後は、お湯に浸かり、しっかり身体を暖めるという大満足なフルコースです。

  • 左:「富美の湯」の年末行事 右上:恒例の「餅つき」 右下:立派な書画
  • 左:「富美の湯」の年末行事 右上:恒例の「餅つき」 右下:立派な書画

いかがでしたでしょうか?改めていろんな銭湯を味わい、生活の一部に取り入れてみませんか?日常生活で継続して楽しむことで、次世代に受け継ぐことができる素晴らしい日本の文化は、銭湯に限らず他にもたくさんあると思います。他の国や地域にはない愛すべき文化を、無理せず生活に取り入れて楽しむことが、継承していく一番の方法だと思います。

今回のレポーターを務めた建築家s

宮坂 英司 	(みやさか えいじ/ Eiji Miyasaka)

関戸 隆久(せきど たかひさ/ Takahisa Sekido)
株式会社I.P.U建築計画
名古屋市東区泉一丁目21-35
TEL 052-955-3070 / FAX 052-955-3071
http://www.ipu-ad.jp
建築に限らず、生活用品から美術・芸術にいたるまで心を込めて人間の手で創るものは、とても強く優しく美しいものです。大量生産品には決して作ることができない魅力は、人々の豊かな感覚に働きかけることができるものだと思います。創り手の技術と感性による……
more

イベント情報

凸凹を探そう 名古屋スリバチ学会

ページトップ