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この記事の取材は、今は昔、Chu-buraが創刊される前、2012年秋のことである。半年間、ゆっくりと寝かされたソース(情報)を、時間旅行さながら、思い出しながら綴るので、仕上がりは定かではない。と案じたが、ソース(情報)から漂う芳醇な香りが、脳内を一気に漂いだしたので、皆様にもお届けできる内容になるかと思われる。

レポーター紹介 関口啓介(せきぐちけいすけ)建築家

愛知県常滑市

秋とはいえ、汗ばむような暖かな日で、足腰の弱った私の毛髪が、へたり顔で頭皮にしがみついていた。満車の駐車場で、そのような風体の私が待っていたためか、係員さんが、無理矢理、駐車スペースをつくって下さった。何とも有難い。ここ愛知県常滑市陶磁器会館は、常滑観光の拠点でもあり、500円の駐車料で、1日車を停めておける有難いところでもある。ここをスタート地点とする「散歩道マップ」なるものも、用意されている。散歩道は、少しだけ歩いてみた。廻船問屋の瀧田家や土管坂、窯元の煙突など、風情がある。こちらは、私などより優れた観光レポートが、ブログなどで数多くあるので、そちらを参考にされたし….。

  • 左上:常滑市陶磁器会館 左下:窯元の煙突 右:土管坂
  • 左上:常滑市陶磁器会館 左下:窯元の煙突 右:土管坂

前田里奈さん

では、今よりも半年若い私は、何を求めて常滑を訪れたかというと、”人”である。
2011年3月11日を境に、多くの建築設計者がそうであったように、私もそれ以降、建築に向き合う自信をなくしていた。向き合えるようになるまで、優に1年はかかったであろう。「建築とは、人と人、人と自然(環境)、人と何かの関係を整合し、構築することだ。」と思えるようになってからだ。
そのような心境から、「音楽とは、まさしく、人と人をつなぐものであり、自分の表現手段です。」と仰られる、前田里奈さん(常滑在住のフルート奏者)を、フォーカスしたいと思ったのだ。

  • 左:前田里奈さん(宗像敏男さんの個展にて) 右:プロジェクトメンバーと常滑市長
  • 左:前田里奈さん(宗像敏男さんの個展にて) 右:プロジェクトメンバーと常滑市長

この日、里奈さんは、常滑屋(大正時代に建てられた、土管工場を利用した喫茶&ギャラリー)で開催されている「宗像敏男の世界展」にみえた。芸術家の宗像敏男さんは、里奈さんのお父様にあたる。里奈さんのルーツを探るのには、お父様の個展は、もってこいの場面であった。里奈さんは、「知多ジャーナル」という地域情報誌の発行責任者でもあり、「リヨン・セントレア ラインプロジェクト」(フランスのリヨンと常滑市をつなぐ、民間レベルの交流活動)のメンバーでもある。というと、昔から、常滑に縁がおありであろうかと思うのだが、常滑に居を構えて、二年経たないというから、その行動力やネットワーク力の凄さがうかがわれる。

里奈さんは、芸術家宗像敏男さんの長女として、福岡に生まれ、小学生の時に家族で渡仏。その後、帰国されたが、18歳で音楽留学のため、単身、再びフランスに渡る。2007年に帰国、結婚され、愛知県刈谷市に住まわれた。翌年、公募に当選し、徳川美術館の催しにて、ご夫婦で、十二単と束帯を着て披露された。その時、お琴を演奏されていた早川恵子さんと出会い、のちに、和洋コラボレーションコンサートを開催することになる。このことからも、いかに、人との出会いを大切にされてみえるかが、わかる。

リヨン・セントレア ラインプロジェクト

1年半ほど前に、里奈さんが、常滑に居を構えられたのがきっかけとなり、常滑在住であった早川さんと「リヨン・セントレア ラインプロジェクト」(前述)の話が持ち上がり、賛同者として、書道の若山聰江さん、茶道の鈴木和子さん、着付けの高村真知子さん、マネージャーの田井清喜さんらが集まられた。

  • 左:リヨンコンサート 右上:日本食に舌鼓 右下:着付けショー
  • 左:リヨンコンサート 右上:日本食に舌鼓 右下:着付けショー

2012年11月13日には、リヨンにて、お琴とフルートのコンサートを開催し、翌14日には晩餐会が催され、着付けのショーや書道の実演が行われた。晩餐会では、常滑焼の中でも急須に使う、きめの細かい土でつくられた盤※が、お料理の盛り付けに用いられ、常滑の澤田酒造さんのお酒が紹介された。日本の文化と共に、常滑の名産が紹介され、生活レベルの交流が行われた。(※盤はシェフが多忙のため、盛り付けが間に合わず、展示のみとなった。)

  • 左:常滑焼きの盤と急須 右:澤田酒造のお酒で乾杯
  • 左:常滑焼きの盤と急須 右:澤田酒造のお酒で乾杯

このラインプロジェクトは、今後、世界の各地と、常滑をつなぐ展開が予定されており、国と国ではなく、地域と地域、人と人が、生活レベルでつながり合うという、政治や経済の枠組みを越えたところでの、人本来の交流が期待される。また、人と人が、言葉や文化、考え方の違いを越え、敬意を持ち、お互いを認め合う領域には、既知の世界では、為し得なかった、新たな発見や可能性を感じる。

人間を愛する

また、里奈さんは、前述したように「知多ジャーナル」という地域情報誌も発行されている。幼い子どもを二人抱えながらの制作は、大変ではないかと尋ねたところ、「これを発行することで、むしろ私は、皆さんから頂いていることの方が多いのです。」と答えられた。このような活動は、里奈さんにとって、なんら苦労ではなく、当たり前のことのようでもある。

なぜ、里奈さんは、こうした人と人をつなぐ活動を、おこなってみえるのだろうか、お父様の個展「宗像敏男の世界」を通して、のぞいてみる。

  • 個展「宗像敏男の世界」
  • 個展「宗像敏男の世界」

展示されているものは、明るく陽気で開放的であり、今にも唄い出したり、踊りだしたりしそうな作品が多い。お父様は、何よりも、南仏プロヴァンスが大好きで、プロヴァンスに行かないと、創作意欲がわかないとさえ仰られるという。そんなお父様は、パーティーが好きで、毎晩、お友達が訪れ、10人20人の集いがよくあったという。芸術とは、人間性を表象するものだ。と勝手に解釈をしているが、芸術家のお父様は、人間をこよなく愛し、明るく陽気に、開放的で、人間の本質的な喜びや幸せを、求めてみえるようでもある。
お父様の作品が、里奈さんに与えたものについて、お伺いすると、「絵は、私にとって身近すぎて、自分では気付かなかったのですが、自分が築いてきた人脈というか、廻りの方々に、今回、父の作品をご覧頂くことで、父のやってきたことと、自分が生業としてやっていきたいことや目指して来たことが、重なっているのだ、ということに気付くことができました。」と答えられた。
「人間を愛する」というと、どこか格好つけた言葉のように感じられるかもしれないが、そんな崇高な思いが、親から子へ、まぎれもなくつながっていると感じた。

人と人をつなぐ

そして、里奈さんにとって、音楽とは何でしょうか、と伺ったところ、「まさしく、人と人をつなぐものであり、自分の表現手段です。」と仰られた。
人と人がつながること、つなげることは、里奈さんにとっては、ライフワークであり、ミッションでもある。身近な地域の中でも、遠い国とでも、人と人をつなぐ、音楽というものは、なんと素晴らしいものであろう。 しかし、それに勝るのが、お父様から受け継いだ、里奈さんの生き様の自覚というか、覚悟というか、その姿勢にあるのだ、ということがわかった。
建築と向き合う私たちの姿勢はどうであろうか。そんな大切な問いかけを、この取材を通じて頂いた気がする。

今回のレポーターを務めた建築家

宮坂 英司 	(みやさか えいじ/ Eiji Miyasaka)

関口 啓介(せきぐち けいすけ/ Keisuke Sekiguchi)
人建築事務所
名古屋市中川区長須賀二丁目1101番地
TEL 052-432-8550 / FAX 052-432-8551
http://www.jin-ken.com
家(うち)とは、ハードとしての器という意味だけではなく、家族やペット、愛着のある道具や身の回りのモノ、それらの歴史までをもシークエンス(継続的)に内包する存在であったりします。だからこそ、家(うち)に帰るという言葉には心地よい安堵感を覚えるのでしょう。……
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